2017年08月17日

福原耕「蕎麦の旅人」

食べものの中で蕎麦が一番好き。
一口食べたときのあの清冽さは、他に例えようがない。(私は下戸なのでわからないが、もし蕎麦に匹敵するものがあるとすれば、それは「酒」だと思うが。)
旨い蕎麦屋があると聞けばどんなに遠く辺鄙な山の中でも行ってみたい。そこの蕎麦を食べてみたい。
幸い私がこれまで行き来した長野や山梨には旨い蕎麦屋が多い。先月友人たちと一緒に草津温泉に行ったのだが、その通り道(わざわざその蕎麦屋に行くために遠い道を選んだのだけど)、佐久市の望月の評判の蕎麦屋で昼食をした。(蕎麦より蕎麦リゾットが印象に残ったのは、別に蕎麦が不味かったのではなくて、リゾットがあまりに美味しかったから)。
旅行に行くときは必ず蕎麦屋を探して寄ってみる。これも旅の楽しみの一つとなっている。
蕎麦の美は夏は味が落ちるが、暑い夏に冷たい水でひきしめた蕎麦をすするのは、本当に極楽だ。

この本の著者は大阪生まれの大阪育ち。大阪はうどんの街だ。福原さんも麺といえばうどんだった。
その彼が50年前、出雲を訪れ出雲蕎麦を食した。
それが彼の蕎麦人生の始まりとなった。
出雲蕎麦って黒いんですよね。割り子の中に入ってそれぞれ違う薬味が乗って重なっている。
以後、彼の蕎麦行脚が続くが、ある日彼は気付いた。蕎麦が好きでも、歴や文化を知らないことに。
日本人がなぜ今のように蕎麦を食べるようになって、しかもこんなに蕎麦好きになったのか?
蕎麦は日本人の歴史と文化を凝縮したものではないのか?
そして著したのがこの本。

面白いです。知らないことをたくさん知ることができました。かなりしっかり書かれた力作。
なにより驚いたのが、元祖「蕎麦切り」がここ山梨県の禅寺だったとは!
(もっともこの「元祖」は他に2つあるのみたいだけど、どこも禅寺。蕎麦と禅の結びつきがこの本に詳しく述べられている)。
そうか、山梨といえばほうとうだけど、蕎麦切り発祥の地とは。

蕎麦というと質素な食べもののように思われるが、元来は「ハレ」の食べものだったのだ。
年越し、引っ越し、雛・端午、祝言・法事、棟上げ・・つまりは行事に際して食べるものだった。
歌舞伎では「大入り蕎麦」、「とちり蕎麦」というのがあるそうだ。
今でも長野の田舎などでは、人が寄る時に「蕎麦を打とうか」とおばあさんやお母さんが張り切るみたい。

蕎麦には「ご当地」の蕎麦がある。
信濃の国はなかでももっとも有名だが、山形、新潟、滋賀なども蕎麦で知られる。
(滋賀は伊吹山の霧下がいいそう。あそこはもぐさもすぐれたのが採れます)。

でも蕎麦はなんといってもお江戸ではないだろうか。
江戸文化と蕎麦は切り離せない。
江戸は職人の町。短気で荒い彼らに蕎麦ほど似合う食べものはない。
この本に書いてあるが、数学者であり、蕎麦博士とも呼ばれた故高瀬礼文は「食べものから脂っぽいもの、、辛いものなどすべてとりさって、残った純粋な形が『ざるそば』。純粋なものの面白さが蕎麦にはある。」と言ったそうだ。

そう、蕎麦は引き算の食べものだ。潔い。
その潔さがお江戸の美意識や価値観にぴったりきたのかもしれない。

最近は蕎麦というと10割、蕎麦粉だけじゃなくっちゃと言う人がいるが、私はそうとばかりは思わない。
蕎麦の基本は「二・八」だ。
もちろん香は10割にはかなわないが、のどこしの良さが蕎麦の醍醐味だとすれば、「二・八」はなかなかのもの。
と思っている私だが、この夏に見つけた旨い蕎麦は10割。しかも生冷凍ものだ。
蕎麦はツユも大切だから蕎麦屋に優るものはないのだが、夏休みはこのあたりどこの蕎麦屋も満席。
だからちょっと昼ご飯は蕎麦にというときに、家でさっと茹でて食べられるものが欲しい。
乾麺はどうも満足できるものがないし、工場生産の生そばは簡便だが味はイマイチ。
けれど、見つかったのだ!これなら合格という蕎麦が。それが冷凍保存できて2時間常温解凍すれば家で食べられるというもの。
長野市の「山本食品」で作り、自然食品の「ムソー」が発売している。
これは蕎麦を食べた後の蕎麦湯もすこぶる旨い!
ただ、ツユがついていないので自分で作るか調達するしかない。
これがこの夏の我が家のマイ・ブームで、自然食品店で買占めちゃいました。
次の仕入れはあと何週か後になるとかだから、それまで大切に食べなくでは。

蕎麦は日本人の美意識に合うと書きましたが、食べられているのは日本だけではありません。
他の国のは食べたことがないけれど、イタリアでは蕎麦のリゾットも蕎麦粉のニョッキもあります。美味しいです。
こんなに旨い蕎麦なのに、食べられない人もけっこういるんですね。
そう、蕎麦アレルギーを持つ人です。
私の友人の女性もかなり強い蕎麦アレルギーで、蕎麦枕で寝ても、酷い症状がでいるほどとか。
最近は健康ブームで、お菓子などに加えられていることも多いので、注意が必要です。
子どもにとっては給食も要注意。

この本には、江戸文化好きで、当然蕎麦好き蕎麦屋好きだった、故杉浦日向子さんへの追悼もあります。
彼女、はやくに亡くなられて本当に残念でした。
posted by 北杜の星 at 07:28| 山梨 ☁| Comment(0) | ハ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする