小説以外の本はけっこう早く届くのに。
冬になって農作業や庭仕事などがなくなり、暖かい室内で本でも読もうという人が多くなったのかな?
それはそれで、読書人口が増えるのはうれしいのだけれど、小説好きな私はやはり小説が読みたい。
そこで、いつか再読したいと思ってまだ処分していなかった本棚の本を眺めていたら、この池澤夏樹の初期長編小説を見つけ出した。
この本、物語りを読むという小説本ならではの楽しみに溢れている一冊で、まるでマルケスばりの南米文学の雰囲気がある。
とある架空の南洋の島が舞台。
この島の大統領に返り咲いたマシアス・ギりをめぐる物語りなのだが、登場人物、物語の展開、どれもとっても多彩で複雑。
だけど池澤夏樹特有の人生全肯定、生命全肯定が、読後感を素晴らしいモノにしている。
私はあまりこのブログで本文からの引用はしないのだけれど、今回はしてみたい。
というのは今回もこの本を読んで以前と同じように、この部分にもっともひきつけられたからだ。
そう、これこそが池澤夏樹!私が好きな池澤夏樹。
彼を最初に読んだのは「スティル・ライフ」だったが、その時も同じ感覚があった。
ちょっと長いけれど書き写してみます。
「生きるものとして世に生れ、一度でも青い空を仰いだ者、風に混じる花の匂いを嗅いだ者、指でものの表面に触れてそれを自分の身体とは別に、この世界に存在する何かの表面だと確認した者、彼らは、幸福である。
たとえ三日目にせっかくの生命を放棄し、ふたたび向こう側へ戻ることになったとしても、この世界における三日はそのまま幸いであり、快楽であり、存在の喜びである。
ウニとして生れる者、鳥として生まれる者、イランイランの一輪の花として生まれる者、人として生まれる者・・
生れることは等しく幸福であり、生きることは幸福であり、食べることの一口ずつ、踏み出す足の一歩ずつ、瞬きのひとつずつ、太陽の光の一条すず、酸素分子のひとつずつは、幸福である。」
この幸福感を持っていさえすれば、競争意識や比較の原理から離れて生きられるし、他者との差異を許容できるのだろうけれど、この単純な生命への賛歌をつい忘れてしまうのが人間。
ところでこの中の「ウニ」というのは、おそらく宮沢賢治からのものですよね。そいうのが賢治にあったような記憶があるのですが。。
新刊ばかりが本じゃない。時には以前読んだ本にまた出会うのも読書の楽しみかもしれません。