2008年11月07日

佐伯一麦「ピロティ」

マンションの管理人山根が後任の渡部さんに、仕事の引き継ぎ説明をする。
そのときの山根の一人称での語りだけで、この「ピロティ」という小説は構成されている。
うーん、これ読み通すことができるかしら?と危惧したが、だんだん引き込まれていった。
だって、佐伯一麦、巧みなんだもの。

管理人の仕事、マンションの住民たち、山根本人のこと・・
渡部に語られる山根の話の中に、それらがうまく配置されている。
周囲の風景やマンションの佇まいなども、ちゃんとわかるようになっているのだ。
管理人の仕事の説明が、微に入り細に入りスゴイ。
管理人室にホワンと座っているだけではない。することいっぱい。
機械・電気関係から、チラシや宅配便の受け取り、清掃、マンション住民からの苦情処理。
これを読むまで、ほとんど知らなかったことばかりだ。
この「ピロティ」、立派な管理人になるためのマニュアル・ブックになると思う。
機械に弱い私だって、これを片手に管理人になれるような気がしてくる。
しかし読者によっては、管理人の仕事だけでは飽きるだろうから、あいまにいろんなエピソードを挿んであるのだが、その按配がよくて退屈させない。

変わった構成だが、構成だけで小説が面白くなるわけではない。
巧みなだけでもダメ。
だけど、この佐伯一麦、なかなかなのだ。
ここまで到達するなんて。
主人公の年齢のせいもあるのか、なんだか老成した感じ。
でもいやな老成のしかたではなく、ふふっと柔らかなあたたかさに包まれるのだ。

「鉄塔家族」や「ノルゲ」を読んでわかるように、佐伯一麦は「日常生活作家」として最近は定評がある作家になっている。
「ピロティ」はまさしく日常だけで成立している。
これほどまで日常を徹底させた小説って、やはり驚きだった。
あとがきに書いてあるのだが、首都圏で電気工として働いていた頃、修理に訪れた団地やマンションの管理人さんたちとの出会いがあり、いつか彼らの姿を描いてみたかったそうだ。

この本の中で私が「そうだ、そうだ」と同感したこと。
山根は西の人間だ。(山口県)。林檎は食べる物で木になっているとこなんて見たことなかった。初めて赤い林檎の実が生っている木を見たときは感動したそうだ。
それって、私にもわかる。私もそうだった。
瀬戸内育ちの私は蜜柑の木は見慣れていても、林檎の木に林檎が生る図なんて想像をしたことがなかったのだ。
なんて可愛いんだろうと感激したことを覚えている。
山梨の家のすぐ近くに林檎園があるが、いまたわわに生っている林檎の可憐な(といっても最近の林檎はだんだん巨大化しているのだけど)実は、なんか食べ物以上の果物って感じがして、いつもうっとりと眺めている。
posted by 北杜の星 at 08:10| 山梨 曇り| Comment(0) | TrackBack(0) | サ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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