2009年10月24日

ロドリゴ・レイローサ「その時は殺され・・」

青山南訳ケルアックの「オン・ザ・ロード」を読んだら、同時代のポール・ボウルズも読みたくなって検索していたら、タンジールでワークショップを開いていたボウルズのもとにグアテマラからやって来たロドリゴ・レイローサのことを知った。
二十代前半のレイローサの才能を見出し、彼の小説の英訳をボウルスが手がけたり、反対にボウルズの作品をレイローサがスペイン語訳したりと、二人の関係は親密だったようだ。
(ほとんどボウルズの晩年の話だが)。

「その時は殺され・・」は、まごうことなきラテン・アメリカ文学だった。
このブログで何度か書いたが、私はいつもラテン・アメリカの混沌の折り重なりにある種の恐怖を感じている。
昨日まで確かにここにあってみんなでそれを見ていたものが、翌日には影も形もなくなって、一緒に見ていた人たちから「そんなもの知らないよ」と言われてしまう・・
混沌の重なりこそが、ラテン・アメリカの「幻想」のような気がする。
だからボルヘスやマルケスのあの「幻想」というものは、私たち日本人が持つ「幻想」とは違って、彼らラテン・アメリカ人にとっては「現実」そのものなのではないか、と。
この作品にもそういう怖さがある。

エルネストは軍を辞め大学に入学する。
そこにはエミリアという女子大生がいて、彼は彼女に好意を持つ。
エルネストとエミリアは一緒に旅に出る。
旅の途中で、老イギリス人夫婦のルシアンとニナと出会う。

彼らが旅で目にしたこと。
彼らを取り巻く不穏な空気。

「ルシアン、それは罠だよ」「エミリア、そこにとどまっては駄目!」と叫びそうになる。
この本の怖さは、簡潔というより省略された文章の中で、ひとがあまりにも簡単に殺されてしまうことだ。
瞬きする間もなく、人生が途切れてしまう。
殺される人間には恐怖を感じる時間さえない。
いかに政治的に混乱しているとはいえ、この殺され方の唐突さに驚いてしまう。

静かなのに強烈な小説。
ボウルズが惹き付けられた作家だけのことはある。
これ、いつまでも心に残りそうな作品だった。
posted by 北杜の星 at 08:18| ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | ラ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。