2010年08月15日

渡辺一正「再起する脳」

著者は48歳のとき、脳梗塞を発症した。
まだ働き盛り、上の子供は高校生、下は小学生だった。
東京三菱銀行に勤務するサラリーマンとして、幾度目かの海外赴任を目前にしていた。
赴任の前に持病の痔を治そうと、新宿厚生年金病院に手術入院し、退院したその午後自宅で仮眠から目覚めたら、右半身が動かせなかった。
助けを呼ぼうとするも、声にならない。
また厚生年金病院に舞い戻り、そこから彼の長い闘病・リハビリが始まることとなった。

脳梗塞は発症後半年を過ぎると、リハビリをしてもそれ以上は回復しないと言われてきた。
しかし、渡辺氏はあきらめなかった。
脳と題名のつく本を片っ端から読み、たんに物理的な体の動きだけではなく、脳と体の連帯する動きとはどういうものかを徹底的に調べた。
そして脳の働きに沿うようなリハビリをしたのだった。
足は装具の補助を受けて早くに動かせるようになったが、右手はびくとも動かなかった。けれど彼は腕や手首や指が固着しないようにたえず自分の健側の手でマッサージをしたり、伸ばしたり曲げたりの努力をおこたらなかった。
すると、発症3年後のある日の電車の中で、右手の親指が少しだけだが、確かにはっきりと動いたのである!
もう一度、二度、動かしてみると、動く。
その日からの彼はあらたな希望に包まれ、リハビリにいっそう励む。
そして、かなりの日常的な行動ができるようになったのである。
以前とは較べようがないが、仕事にも復帰した。

不断の努力、というけれど、渡辺氏のこの本を読むと、その言葉の重みを感じる。
と同時に、あきらめないこと、絶対に治ると信じること、の大切さを思う。
そうは言っても、病を得ての3年間である。時には心が挫けることもあっただろう。
ただ彼が脳梗塞を発症した47歳という年齢が、彼を頑張らせた要因かもしれない。

私の父も五十歳代で脳出血の発作を起こした。
一生懸命、母と二人三脚で闘病した。
かなり元気になった矢先、旅行先の北海道で二度目の発作を起こし、室蘭の病院に一ヶ月間入院することとなった。
極寒の室蘭に、母は独りでホテル住まいをし毎日父を見舞った。
退院して自宅に戻ってからの父は、以前の父とはある点で、まったく違った人間になっていた。
つまり、あきらめたというか、人生を投げてしまったのだ。少なくとも私にはそう映った。
その時の父は70歳を過ぎていた。
もうひと頑張りしようという気力はすでになかったのだろう。

まだまだ脳のことは解明されていない部分が多い。
だからこそ、渡辺氏のようにポジティヴに病気と取り組んで、複雑な脳の機能を信じてリハビリを続けることが大事なのだと思う。
脳血管系の病気は、QOLが下がり、苦しいことが多い。
でも一つ一つ、少しずつでも前進できるなら、それは大きな喜びでもある。
そういう意味でこの本は、脳梗塞を患う人にとって、福音となるに違いない。

渡辺氏もこの中で書いているが、病気になると本人もつらいが、家族もつらい。
闘病は夫婦でするもの・・奥様の尽力に感謝をと、二人で過ごしたNYを再訪したいと願っておられるとのこと、近くの実現を心より願っています。
posted by 北杜の星 at 07:29| 山梨 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | ワ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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