2012年07月04日

渡辺一史「北の無人駅から」

ある書評で見てなんとなくライブラリーに予約していたこの本、実はそれほど期待していなかった。
タイトルから鉄道ファンの本か、または回顧的なロマンティックな本だろうと思っていたからだ。
それに手に取った時の分厚さと重さにもたじろいだし。
ごめんなさい。このノン・フィクション、ものすごーく面白かった。

たしかに著者が北海道にある6つの無人駅に降り立つところから章が始まるのだが、駅や鉄道がメインではけしてない。
駅や鉄道を取り上げるのは、それらがつまり北海道の歴史そのものだ。
著者が書こうとしたのは現在北海道が抱える諸問題についてである。
過疎、市町村合併、タンチョウヅルを保護するための環境維持、漁業、米作り・・
もちろんこれらは日本全体の問題でもあるのだが、北海道独自の解決が求められる側面が多い。

まず最初の無人駅は釧網本線の「茅沼駅」。
この駅は鉄男さんや鉄子さんにはかなり有名らしいが、なんとも奇妙な駅なのだ。
トンネルとトンネルの間に挟まって、裏は山がそびえ、前には海に続く急峻な道があるだけ。
つまりこの駅に降り立ってもどこにも行けないのだ。どうしてこんなところに駅がなくっちゃいけないの?という駅。
(まぁ読めば存在理由はあるのだけれど、それは乗客のためではなくて、鉄道の保全工事のためらしい)
今はケモノ道のようになっている海に続く道は、以前は漁師の家が数軒建つ集落に続いていた。
その漁師の一人は泥酔して列車に両足を轢断され(一度に両足ではなく、右、左と二回の事故による)、それでも漁をし、駅までの山道を腕の力だけで松葉杖を突いて登ったというツワモノだったそうだ。
すでに亡くなっている彼のことを、著者は丁寧に追跡調査している。

このノン・フィクションが魅力的なのは、著者の渡辺氏が高見からものごとや人びとを見ていないことだ。
時に取材対象に腹立たしい思いや感嘆ややりきれなさをとてもストレートに出していているのが、好感が持てる。
ライターとしてテクニックではなく、素直な彼の人間性が(少々幼いとも感じることがあるが)この本の最大の素晴らしさではないだろうか。

北海道にさして深い興味があるわけでもなく、鉄道ファンでなくとも、この本は多いに楽しめると思う。
私などこの本で初めて知りえたことがたくさんあった。
北海道が日本一の米の生産地というのも知らなかった。
以前は質が悪く不味いことで有名だった北海道米が、いまはコンビニやファミレスのご飯ものに使われていて、私たちは知らずに北海道米を食べているようだ。
この米作りの章を読むと、日本の農政に改めて疑問を持ってしまう。
米農家を守るというと素晴らしく感じられるが、保護し過ぎと言えなくもないなぁ。

私の友人がこの夏、北海道一周のバイクの旅に出かけるが、「北の無人駅」にも立ち寄ることがあるだろうか。。
posted by 北杜の星 at 07:29| 山梨 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | ワ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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