嘉栄は80歳のはずなのにるみ子の母よりも若く美しかった。
豊世の亡くなる当日の朝、小説家の卵のるみ子は祖母から一族のことを書いて欲しいと頼まれていた。
嘉栄は歳をとる速度がとても遅い病気をもって生まれ、ずっと隔離させるように扱われその存在は家族の秘密となっていたのだ。
嘉栄は病気の治療のために外国に行くが原因は不明のまま。
祖母から母、母から娘、そしてその子へ・・
連綿と続く時の流れの外で生きてきた嘉栄の悲しみと孤独。
嘉栄を眼のあたりにする周囲の人たちの困惑。
不老不死は人類の永遠の願いと言われる。
あらゆる富を得た歴史上の絶対君主たちは不老不死の薬を手に入れることを必死に求めてきた。
現在ではどちらを向いてもアンチ・エイジングの言葉があふれている。
私は個人的にアンチ・エイジングという言葉が大嫌いで、60歳の人間が60歳に見えて何が悪い、歳をとれば老化するのは当たり前、と考えている。
アンチ・エイジングというのは自分が歳を取ることに向き合えないということ、それはつまり死ぬことにも向き合えないということだと思う。
そんな執着心はいやだし、私のちっぽけな美意識からすると、浅ましい限り。
嘉栄の人生の残酷さを知ると、歳相応に老いる幸せさに感謝したくなる。
嘉栄の病気はフィクションだが、反対に成長や老化が普通より何倍も早い病気は実際にある。
ウェルナー症候群やプロジェリア症候群がそれで、これは本当に痛ましい。
こういうのも再生医療で治療できるようになるのだろうか。
「ピエタ」以来、大島真寿美は変化している。
テーマもこれまでとはかなり変わっているし、ひとまわりもふたまわりも大きくなった。
これまでは小品を書くひとってイメージだったが、骨太な作家になりつつあるような・・
楽しみです。