2013年05月20日

三崎亜記「玉磨き」

「となり町戦争」「廃墟建築士」「鼓笛隊の襲撃」など、現実ではありえない出来事が、読んでいるうちに「こういうことって、あるかも」とリアルに思えてくる・・そんな小説を書き続けている三崎亜記。
今回の「玉磨き」でも、彼の架空世界のリアルさがこれまで以上に展開されている。
それは小説の手法によるもので、これがルポルタージュのかたちをとっているからだ。
ある「仕事」に従事している人にインタビューをするという設定なので、フィクションだかノンフィクションだかわからなくなってくる臨場感に溢れている。

この短編集は6編から成っていて、どれもが「仕事」を扱っている。
この「仕事」というのがじつに無目的で理不尽なものなのだ。
表題の「玉磨き」にはその土地の伝統技術である玉を磨く男が出てくるのだが、60センチ直径の玉をひたすら磨いている。
何のために磨くのか、磨いた玉がどうなるのかということは関係がない。とにかく時には食事もせず睡眠も取らず磨き続けるのだ
おそらく玉は何十年何百年後には磨耗して消滅してしまうだろう。事実、玉磨きをしていた他の家々では研磨機を導入したために玉がなくなって、彼の家族だけが唯一玉磨きの後継者となっている。
他にも、始発点と終着点が変わらない鉄道を作る男と列車の乗客たち。
自分の部屋でただ部品を作り続ける女や男が出てくるのだが、彼らはその部品がどんな製品の一部分かを知らされていない。

彼らの仕事は無意味である。不条理である。
しかし考えてみるとどのような仕事であっても、どこか同じようなところをもっているのではないだろうか。
社会の役に立っているか、誰かの助けになっているか、この仕事で世の中を変えよう・・
でもそんなことほとんどの人間は考えてはいない。
目の前の仕事を消化することを日々繰り返しているだけだ。
無意味、不条理と言えなくもない。
この小説集がリアルさを感じさせるとしたら、わが身に引き寄せて考えてしまうところだろう。

これ、とっても面白かった。
正直、「コロヨシ」など最近の三崎亜記に少し物足らなさを持っていたので、ひさしぶりにワクワクできてうれしい。
この本の後ろに、各短編の「参考文献」が載っているのだが、これは作者の「お遊び」。
いかにもありそうな文献が並んでいるけれど、もちろんこれらは全部贋物だ。
こういうのを考えるのって、悪戯少年の面目躍如って感じで楽しかったんじゃないかな。彼の楽しげな顔が目に浮かびそうだ。
posted by 北杜の星 at 07:37| 山梨 ☁| Comment(0) | TrackBack(1) | マ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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「玉磨き」三崎亜記
Excerpt: なんのために、その仕事を続けているのか。 三崎亜紀の想像力が拓く、新境地にして真骨頂。 ルポライターとして働いてきた「私」は、20年の節目を迎え、請け負い仕事をこなす中で「見逃してしまったこと..
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