2013年09月06日

綿矢りさ「憤死」

「おとな」「トイレの懺悔室」「憤死」「人生ゲーム」の4編が収められている。
最初の「おとな」はわずか4ページほどのもの。
幼い頃見た夢は、もしかしたら現実だったかもしれないような記憶を描いていて、エロティックで怖い小説だ。
この小説集では「トイレの懺悔室」と「人生ゲーム」にホラーっぽいところがあって、「おとな」はそういう意味ではいい導入部となっている。
4編の小説のストーリーはばらばらなのだが、一冊をとおして読むと底辺にながれるものに似通ったものを感じる。

私は「おとな」がもっとも好きだった。
まったくの作り話と思って読んでいると突然「りさちゃん」が出てきて、えーっ、これってほんとのことだったの?と思わせるところなど、作りが巧み。

「トイレの懺悔室」と「人生ゲーム」はさきほど書いたようにホラーっぽい。
ホラーは嫌いじゃないのだけれど、この2編は男子が主人公となっていて、「憤死」の女の子たちが主人公のものと比べると、やはり綿矢りさは女の子でしょ、というところがあって、どうも心理的な細やかさが足りないような気がする。
心理の折り重なりに重点が置かれずに、説明の方が多くなっている。
なので私の印象には残らなかったし、怖さもさほど感じられなかった。

表題の「憤死」は悪くなかった。
歪な関係にある自殺未遂で入院している友人を見舞う話なのだが、見舞う主人公には悪意が潜んでいて、以前より上から目線で自分を見てきた友人の状況に、溜飲が下がる思いがある。
けれど病室で二人で話している間にそうした感情が微妙に変化していく。
友人は長く不倫の恋人が離婚したにもかかわらず、自分とは結婚してくれないので、飛び降り自殺を図ったと言う。
それは悲しさや恨みの絶望からではなく、強い怒りからだった。
あまりの怒りのために血管が切れるとかで死ぬのが「憤死」だが、怒りのために自殺するのも「憤死」なのか。
いや、もしかしたらそれこそが本当の「憤死」なのかもしれない。
聴いているうちに次第に主人公は友人に対して尊敬の気持ちすら生まれてくる。。

長い間の友人との感情のねじれ。
複雑な関係性がよく描かれている。
でもそれって主人公だけの空回りで、友人は全然気にも留めていないのかもしれない。

私は綿矢りさの短編集は読んだことなかったのだけど、長編の方が向いている作家だと思う。
この短編集が悪いというつもりではないのだけれど、あと一歩というところは否めなかった。
posted by 北杜の星 at 07:32| 山梨 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | ワ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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