2013年09月09日

吉田修一「愛に乱暴」

初瀬桃子、結婚8年になる主婦。子どもはいない。
カルチャーセンターで手作り石鹸の講座を持っている。
夫、真守の両親の家の敷地の離れに住んでいる。その離れには昔、夫の祖父の妾が住んでいたらしい。
義母と桃子はそれなりにまぁうまくいっているようだ。
そんな桃子の暮らしが、ある日突然崩壊する。
真守が不倫をし、しかも相手の若い女性は妊娠しているという。

と書くと、これはよくあるお話なのだが、よくあるお話で終わらせないのが吉田修一の力量だ。
前半のさまざまな出来事が後半への伏線となって、帯文にある「読者も騙される」ということになってゆくプロセスは見事。
しかし構成だけがこの小説のすべてではない。
桃子が次第に孤立して不気味な行動をする怖さ、哀れさ、悲しさの描写が印象的だ。
夫の不倫の相手の状況と、結婚する前の自分の状況のあまりの一致が、桃子をなおも意固地にさせるのか。。

不思議なのは、この小説のメインの登場人物たちに好感はもてないのに、彼らの気持ちがとてもよくわかることだ。
人間の感情のもって行きどころとして、ごく当然の反応だからか。
でもラストがちょっと納得できなかった。
ひょっとしたら吉田修一は、これをどう終わらせていいのかわからなくて、こうしてしまったのではないかと思ったくらいだ。
せめて桃子を暗い穴から救い出したかったのか。

桃子を含めみんな「悪人」ではないのだけれど、「善人」とも言えない。誰かを傷つけているのは事実だから。
ただ周囲の人たちは、伯母にしてもカルチャーセンターの男性にしても近所の中国人にしても「善人」なのがこの小説のおもしろいところだ。
浅い付き合いだからこそ、人は人に優しくなれる。
人間は深く関われば関わるほど、お互い「善人」でいることは難しいのかもしれない。
posted by 北杜の星 at 07:40| 山梨 ☔| Comment(0) | TrackBack(1) | ヤ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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「愛に乱暴」吉田修一
Excerpt: 妻も、読者も、騙される! 『悪人』の作家が踏み込んだ、〈夫婦〉の闇の果て。これは私の、私たちの愛のはずだった――。夫の不実を疑い、姑の視線に耐えられなくなった時、桃子は誰にも言えぬ激しい衝動に身を委ね..
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