2013年10月28日

綿矢りさ「大地のゲーム」

この本どうも評価が大きく分かれているようで、読むのが楽しみだった。
たしかにこれまでの綿矢作品とは趣が異なっている。
背景は21世紀後半の近未来。取り扱うテーマは地震や学生運動など社会的なもの。
しかし読んでいくうちに、登場人物の心の動きの表裏が、いつもの綿矢りさと感じられるものだった。

3・11の大震災を経験して、日本の作家たちは震災以降の自分の文学を模索してきたと思う。
いろんな作家がさまざまなシチュエーションを設定して、小説を発表している。
綿矢りさにとっての大震災への自分の文学結実がこれだったのだろう。

親の親の世代に大きな地震が起こった。
半年前にも未曾有の大震災が襲い、近い将来にもまた災害がやってくるのは必定らしい。
そんななかで大学生活を送る数人の大学生たち。
一人は主人公の女子学生。一人は主人公の「私の男」という恋人。でも二人の関係はそう密ではない。
一人は半年前の大震災のときに人々を救援しカリスマとなった「反宇宙派」という思想グループのリーダー。
もう一人がマリで、リーダーと関係をもつようになる。

主人公には「私の男」がいるのだけれど、リーダーに惹かれている。
でもそんな自分の気持ちを前に出せない。
震災以後、大学に寝泊まりしながら、今は学園祭のための「反宇宙派」による劇の上演準備をしている。
そしてまた大きな地震が起きた。

絶望の現在、希望のもてない未来。
それでも彼らは青春という時間を過ごしている。
強さと脆さを抱えながら、お互いの心を探りながら、それ以上に自分の心を見つめながら。

この本の本当の主人公は誰なのか?
女子学生の語りで書かれてはいるが、彼女が主人公ではないのではないか?
マリでもない。
とすると、語り部である女子学生から語られるリーダーなのか。たしかに彼は複雑だ。
でもひょっとすると存在感の希薄な「私の男」なのかもしれない。
そう思ったら、この本はもっと違う読み方ができるような気がするのだけれど。。

私はこの作品、大いに楽しんだ。
もう少しどこかをなんとかすれば、もっと完成度の高い小説になっただろうと思わぬでもないけれど、十分満足。
若手の中では、一番期待している作家さんです。
posted by 北杜の星 at 08:40| 山梨 ☀| Comment(1) | TrackBack(0) | ワ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
とても魅力的な記事でした。
また遊びに来ます!!
Posted by ダウンロードの書き方 at 2013年12月11日 10:53
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