2014年10月04日

伊吹有喜「ミッドナイトバス」

この作者の本は「四十九日のレシピ」を読んだことがあるだけ。
あれにくらべるとこれはかなりの長編だ。
でもどうだろ?三分のニに縮められる小説だと思う。中だるみで退屈なところがあった。
脇役の登場人物たちも未消化で終わっているような・・

利一は新潟の美越(架空の町)に住む高速深夜バスの運転手。
バブルの最盛期に東京で仕事をしていたが会社が潰れ故郷の町に家族とともに帰って、運転手となった。
妻の美雪、長男怜司、長女彩菜たちは利一の母親と同居となったが、実雪と姑の折り合いがひどく悪く、実雪は子どもたちを置いて家を出ていった。
あれから16年。利一の運転する深夜バスに美雪が乗って来た・・

今は新しい家庭を持ち、幼い息子がいる美雪。
東京で利一を待つ定食屋「居古井」をしている志穂。
ウェブコミックのキャラクターの格好をしながら、何かを興そうとしている彩菜。
父と同じように仕事を辞めて故郷に帰って来た怜司。
元大学教授の老いた美雪の父親。
壊れた家族の16年を、埋めることはできるのか?

私は両親のいる普通の家庭で育ったし、離婚は一度経験しているが子どもはいなかったので、利一一家それぞれの気持ちは想像するだけだ。
でもきっと、「あの時気づけばよかった」「あの言葉を言えばよかった」と、残した想いが後悔を生むというのは、なんとなくわかる気がする。
大人でさえそうなのだから、訳も分からず置き去られた子どもは、原因は自分なのではないかと自分を責めるかもしれない。
自分の気持ちをきちんと言語化できないからなおさらのこと。
親にも言えず、感情が内に積もってゆく。憎しみだったり恋しさだったり、それは兄妹であっても別々の感情だ。

この小説の中で好きだったのは怜司。繊細で怜悧でしかも公平な目で周りの人たちを見ている。
嫌いだったのは元妻の美雪だ。なんなんだこの女は!という「ズルイ」部分がたくさんあった。弱さを利用しているというか、こういう女を描くのは男性作家なんだよね。
美雪の図々しいまでのいたいけなさは、どうも私の趣味ではない。これは男が創る女像だと思う。

ミッドナイトバスに乗ったことはないけれど、女性専用車とか一列ずつの座席があるんですね。
深夜に出発して早朝目的地に着くというのは、一日を有効利用できていいかもしれない。
もっともシニアには体力的にキツイけれど。
昨年だったか一昨年だったか、新潟市に二泊で遊びに行った。整然とした清潔な気持ちのいい街だった。
この本に出てくる万代橋や信濃川やバスターミナルなど位置がわかるので、読んでいて楽しかった。
だけど「たれかつ丼」は知らなかった。新潟ではかつ丼は卵でとじる煮かつでもなく、信州あたりのソースかつ丼でもなく、「たれかつ丼」が主流だそうだ。
美味しそう。今度行ったらぜひ信濃川を渡った古町で食べてみたい。
それともう一つうれしかったのが、ブルースのロバート・ジョンソンの歌が出てきたこと。それも私が一番好きな「Come on in my kitchen」だった。
雨にそぼ濡れたうらぶれた誰かが立っていたら、思わず「Come on in my kitchen」と言って、熱いコーヒーでも出してあげたくなるけど、そんな歌で、これがなんともいい歌なんです。
posted by 北杜の星 at 07:36| 山梨 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | ラ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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