2015年07月20日

ロジャー・イーガーチ「失われた夜の歴史」

昼は明るく、生に満ち、善き世界。
一方夜は暗く、死の匂いがし、悪がはびこる。
不夜城のような現代の夜でも、夜はなにやら恐ろしい。
ましてや中世以後から産業改革前の「夜が暗闇だった時代」のヨーロッパやアメリカでは、夜は悪魔が跋扈する底深いものだった。
この本はそんな夜の歴史を、「文学、社会、生活、心理、思想、魔術」などから考察した貴重な力作である。

もうこれ、ものすごく面白かった!
他の本と並行して読みながら4日かかって読み終わったけれど、500ページを退屈することがまったくなかった。
どうしてこれまでこのような本が書かれなかったのかそのほうが不思議なくらい。

16世紀から18世紀のヨーロッパでは今以上に夜の恐怖は大きかった。
略奪、暴行、そしてなによりも恐ろしいのは火事だった。
それらに加えて、悪魔精霊魔女たちが忍び寄る。

ときには昼の世界と夜の世界が逆転した。
力のないものが強くなり、貧しいものが富めるものを超え、縛り付けられていたものは解き放たれた。
奉公人や奴隷は夜だけは自由を得たし、ヨーロッパのギルド都市では、夜は働いていはいけないという法律があったという。

酒場や社交や性行為などの夜の慰めももちろんあった。
当時から「良い眠り」への欲求があったそうで、裕福なものは寝るときに使用人に本を読ませたりベッドを揺らせたり、いろいろ眠るための儀式があったのがおかしい。
おかしいのは、中世には眠りというのは「消化」と呼ばれるプロセスによって腹部で生じるという説を信奉していた。眠りは脳ではなくお腹だと思っていたのだ。
「食物が胃で消化されると、ガスが頭へ上昇し、そこで冷たい脳によって凍り、五感の導管や道を塞ぎ、その結果眠気を催す」と考えられていた。
笑っちゃうけど、私たちが今信じていることが数百年先にはこうして噴飯ものになることってあるかもしれない。

ないしろ500ページもの本。紹介したい個所がたくさんありすぎて困る。
かなりの研究成果としての本だけど、重々しくアカデミックではなく読めるので、読んでみてほしい。
夜の深みにはまるかもしれない。

posted by 北杜の星 at 08:00| 山梨 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | ラ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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