2015年10月02日

中島たい子「院内カフェ」

このところ「院内カフェ」、それも従来の病院経営の辛気臭いものではなくて、スターバックスなどのカフェを設置する病院が増えてきた。
病院に入るとクレゾールではなく、エスプレッソの香りに包まれる。
病院というかなり気の滅入る非日常の場所に、ああした普通の街の一角があるのはホッとしてありがたい。

中島たい子はこれまでも「漢方小説」というタイトルどおりに漢方薬を取り入れた本や、「そろそろ来る」のような更年期を扱った医療っぽい本を書いている。
とくに「漢方小説」はすばる文学賞を受賞したとても面白いものだった。
その中島が今回は「院内カフェ」という病院の外と内のいわば緩衝地帯ともいうべきスペースを舞台に、人間模様を描いている。

店は街かどにあるのと同じ造り、同じメニュー、同じマニュアル。
それでもここは病院内だ。街とは異なる客が集まる。
「このコーヒーは体にいいですか?」と毎回大声で尋ねるウルメ。
ゴーマンそうで腕の毛深いゲジデント。
夫にソイラテを浴びせかけた妻の夫婦客。
自分を守るためにもう一つの人格を作り上げている幼い女の子・・
入院しているらしい著名女性作家と編集者。
「院内カフェ」で日曜日に働くのは、若い男の子の村上君と、売れない作家で不妊に悩む「私」。

病院が舞台というだけあって、風邪のウィルスの話など出てくるのだが、おかしいのは風邪薬服用反対で自然治癒で治す村上君の理路整然とした説明。
これには「そうよ、そうなのよ」とまったく賛成してしまう。
どうやら「漢方小説」を書いただけあって、中島たい子は自然療法派なのだろう。

この小説の主人公は「院内カフェ」で働く「私」でもあるが、もう一人は夫に飲み物をぶちまけた妻でもある。
妻の朝子は専業主婦。フラワーデザインで身を立てようとした矢先、両親の介護が必要となった。親を看取りそれではこれからという時に、夫の潰瘍性大腸炎という難病が判明。
自分の居場所が見つけられない朝子の苛立ちは夫に向かう。そして夫婦を続けていけない気がして離婚を考えるようになる。

彼らは二十数年まの結婚式で「病めるときも、健やかなるときも、共に歩み、死が二人を分かつまで、愛することを誓います」と宣誓したはずだ。
それなのに夫が病気になって離れようとしている。朝子に罪悪感がないわけではない。
中島たい子は書く。
それは誓わなければならないほど、難しくたK変なことなのだ、と。
そうか!そうなのだ。本当にそれは難しいことだから、誓うのだ。
ましてや時間が移ろい、二人の関係は少しずつ変化してゆく。
「病めるとき」というのは相手が病んだときだけではなく、自分が病んだときも相手のことを思いやり愛せるかとと和ていることに孝昭は気づく。
病気になったら自分のことで精いっぱい、相手にしてもらうばかりを考えてしまう。でもそんなとき相手を健やかな時と同じに愛し気をつかえるか?

中島たい子の小説はいつもちょっとおかしい。
今回もともするとへヴィになる病気や夫婦の問題を、そのおかしさで和らげながら、核心をつく物語にしていて、巧いなぁと拍手喝采だった。

カプチーノのLにショットとクリームとチョコチップをダブルで追加!
味は想像できるとして、ずいぶんとゴージャスな注文ですよね。いくらになるのかな?
でも私はとうていLは飲めません。Sで充分。
posted by 北杜の星 at 08:17| 山梨 ☁| Comment(0) | TrackBack(1) | ナ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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