2016年05月11日

本谷有希子「異類婚姻譚」

これまで三度芥川賞の候補となりながら逃してきた本谷有希子。
応援していた私は「やっと」の思いで、胸をなでおろした。
若いころから(今でも30代なかばで充分若いけど)才能あふれる人で、彼女の舞台なら観てみたいものだと、演劇嫌いの私が願ったほど。
でもそういう意味では今回の受賞作品はこれまでのエキセントリックな主人公の言動が薄まっている印象があって、ちょっと肩透かしかもと読み始めた。
ハチャメチャ、ヒリヒリの彼女の小説の特性が弱いかな、と。

それでも大いに楽しめたのは、作品をとおしてのものすごい「気持ち悪さ」だ。
「気持ち悪い」のが楽しいとは変な言い方だが、この「違和感」がなんとも本谷作品らしいところ。
そして「気持ち悪さ」の根源が何かを問うのが、このお話し。

結婚して4年の夫婦、サンちゃんと「旦那」。
子どもはなく、サンちゃんは専業主婦で安楽に暮らしている。
旦那はけっこうな稼ぎの仕事をしているが、だからだろうか、家では何もしたくないと言う。面倒なことはとにかく避けて、テレビのバラエティ番組を見ている。
ある日サンちゃんは自分と旦那の顔が似て来たのに気付く。
顔の造作は一定ではなく、見るごとに変化したり、元にもどったり。
そして何もしようとしなかった夫が突然、大量の揚げ物をつくるようになって。。

日常が異化していく。
それが妻に何かを気付かせる。
同化する夫婦と、やっぱり「異類」である二人の人間の結婚性格。違和が大きくなればなるほど疑問も大きくなる。
。。気持ち悪さがピークになるのが、隣人の猫を山に「逃がして」やりに行く場面。
猫を逃がすのは、なにかの暗喩か?
いろんなエピソードが出てくるが、その都度少しずつ、裂け目が広がるとろこにリアリティが感じられて笑える。(本谷作品にはいつもこの「わらい」があるんですよね。)

毒が薄まったような印象を最初受けたけど、やはりこれはまぎれもない本谷有希子でした。
読みやすくなっているので、読者層が増えるのではないでしょうか?
本を読む人をとにかく多くしたい。そのためにはレベルを落とすのではなく、読みやすくする努力を作家たちはしてもいいのでは?と思います。
純文学好きだけが本好きとはかぎらないのですから。
ちなみに私はそういうジャンルがあるとすればですが「純文学」大好き人間です。
posted by 北杜の星 at 07:38| 山梨 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | マ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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