2016年08月02日

川上弘美「大きな鳥にさらわれないよう」

川上弘美の時間や空間の領域を超えた独特の世界は、「川上ワールド」と呼ばれる不思議な感覚を持ち、それがふうわりとした文章で綴られるとますます現実より遠いところに運ばれる気がする。
けれどあの3・11以降、彼女の書くものは少し変わったような気がする。
本質は変わらない。でもどういえばいいのだろう?一生懸命に希望を探し、確かなものを信じようとする気配が強くなっている。
大学で生物学を学んだ彼女だから、生命の根源を見据えて小説を書こうとしているのかもしれない。
この変化が「大きな鳥にさらわれないよう」にもはっきり出ていると思う。

もっともっと先の未来の、滅亡の危機に瀕した人類が住む時代。
人々はいろんなグループに分かれて暮らしている。
人間も植物も工場で生産される。その人間もイルカやウマやウシ由来でつくられていて、人間由来の人間はめずらしし存在だ。
またあるグループ内では、女はたくさんいるのに男はたった十数人。生れる子どもはほとんどが女の子で、その女の子たちを女が「見守り役」として面倒を見る。
湯浴みに出かけたりどこか牧歌的なのに、クローンや人工知能が出てくる。

と書くとSF小説のようだが、雰囲気はまったくそうではない。
未来小説なのに、むしろ太古とか原始を感じさせるのだ。
短編集ではなく長編小説だというのは、読み進めて行くとだんだん繋がりが出てわかるようになる。
人類がなんとか再生しようとする軸が見えてくる。

ええっとですね。これ、うまく言い表せません。とても説明が難しい。
感覚を鋭くしないとこれは理解できないし、その感覚を言葉で説明するには私は力不足。それに私ごときが説明するよりもなによりも、読んでみるのが一番。
これまで以上の川上ワールドが出現している。
とにかく、これは素晴らしい!
これまで私は「舞鶴」が彼女の最高傑作だと信じていて、「センセイの鞄」が好きなんていう川上ファンを「フン」「わかっちゃいないなぁ」と思ってきたけれど、これからは迷います。
それほどこの「大きな鳥にさらわれないよう」は彼女にとっても川上ファンにとっても、大きな意味を持つ作品となることでしょう。
スゴイものを書いちゃったな、川上弘美は。。

先だって窪美澄の同じく少子化の日本を描いた「アカガミ」を紹介しましたが、あれはほんの十数年後の近未来のお話しだった。
でもあれにはどこにも希望がなかった。ただただ怖い世界が描かれていた。
作家の資質が異なるのか、何を書くかの目的の違いなのか、表現方法が異なるのか、それぞれの作家の個性というものなのでしょう。
しかし、あえて言わせて貰うなら、作家の力量という問題もあるかもしれませんね。
関脇と横綱くらいの格の差を感じます。同じ土俵に立つと、その大きさの違いがわかります。
でも世の中には関脇を応援する方が好きという人もいるのだから、それはそれでいんですけど。

素晴らしい読書体験ができる一冊。
posted by 北杜の星 at 07:34| 山梨 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | カ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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