2016年09月06日

長谷川裕也「靴磨きの本」

「靴磨きの本」ではあるが、これは単なるハウツー本を超えているのではないだろうか。
わかりやすいのはもちろんだが、本の雰囲気がとてもいいのだ。
それは著者の靴と靴磨きに対する愛情が、こちらに伝わってくるからだと思う。

著者は以前は東京駅前の路上で、日銭を稼ぐために靴磨きをしていたそうだ。靴磨きの道具は100円ショップで揃えた。
あるとき客から、君は靴磨きが下手だと言われ、ベテランの靴磨きのおじさんの道具や手順などを盗み見しながら勉強に励み、靴磨きの奥深さに気づいて、現在では青山に靴磨きの店を構えるまでになった。
あの東京の一等地の青山で、靴磨きの店?と訝る向きがあるかもしれないが、この本を読み、著者の靴磨きにかける思いの強さを知れば「一度行って、磨いてもらいたい」と思うに違いない。
かくいう靴フェチの私も、少し上等な冬のブーツを磨いてもらいたいと思った。

でも著者は磨いてもらうより、まずは自分で磨いてみようとこの本を書いているのだ。
靴磨き必須道具の数々、例えば、シューツリー、馬毛ブラシ、クリーナーやクリーム、油性ワックス、布(繊維の短いものとネルなどの柔らかいもの)などが並んだ写真がある。
磨く前のアドバイスもまずある。
靴は玄関に置いてあるので玄関でする人が多いが、玄関は暗いので明るい場所に移動すること。
姿勢もたいせつ。かがまないでいいようにすれば疲れない。
もちろん汚れてもかまわない格好で・・など、言われてみるとなるほどのアドバイスだ。

磨き方の他に、ちょっとした修理の方法も書かれている。
女性のヒールは傷つきやすいが、それを目立たなくするテクも紹介されていて、これは役立つ。
ヒールの傷って自分では見えないけど、後ろを歩く人にはけっこう目立つものだもの。
靴が好きでも、靴磨きはほとんどしないなぁ。恥ずかしながら、ワックスを沁み込ませたスポンジでさっと拭くだけという体たらく。
これで靴好きとは情けない。
私の夫は以前東京に住んでいた頃には仕事場が西新宿だったので、京王プラザホテルの靴磨きのおじさんに磨いてもらっていた。
さすがプロの仕事、ほれぼれするくらい美しく仕上がっていた。
でも最近では半分リタイヤ状態で毎日スニーカー。靴磨きの必要がなくなったが、少しさみしい。

イタリアは靴で有名な国だが、彼らは本当に靴好きだ。靴屋の多いこと。
(タルコフスキーの映画「ノスタルジア」のなかで主人公の亡命ロシア人がそのことを話すシーンがあったのが印象にのこっている。)
若い人たちも夏はスニーカーでも、秋から冬には皮靴を履く。
ヨーロッパのホテルやレストランでは、着ている洋服より履いている靴を見るというくらい。
ただ値段が高くて質の良い靴を履いているというだけでなく、手入れがちゃんとされているかも見るらしい。
そういえばホテルの部屋の前に夜靴を出しておくと、朝には磨かれて元のところに置いてあったものだけけど・・

小学生だったか中学生の頃だったか、よく母から父の皮靴を磨くように言われたものだ。
茶色の靴には茶色の靴墨、黒い靴には黒い靴墨。それを間違ってすごく怒られた記憶がある。
でも今考えると、母は自分が靴磨きが嫌いで、だから子どもにさせていたのではないか?

靴磨きといえば、私よりもっと年上の世代なら、敗戦直後の子どもたちの靴磨きを思い浮かべる人もいるだろう。
それがいま、青山に靴磨き店!
世の中は変わったけれど、一つのことに精進すればかならず成功するというお手本でもあるような気がする。

靴だけでなく財布などの革小物のお手入れもあります。
posted by 北杜の星 at 06:58| 山梨 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | ハ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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