2016年10月05日

帚木蓬生「受難」

帚木蓬生は精神科医をしつつ作家として活躍する九州在住のひと。
多忙ななかで、一年一作というのがこのところのペースとなっているようで、私はその一冊をいつも大切に読んでいる。
今度のこの「受難」は500ページあまりの大長編。他にすることが山積していて読了までにほぼ1週間かかってしまった。
私の夫などは一冊の本を読むのに何日もかけるのだが、私は一気呵成の勢いで読まなければ途中でイヤになるタイプ。だから1週間というのは長期戦だったのだが、読んでよかった。
帚木蓬生のヒューマニズムって、本当に本物。

韓国フェリー世月(セウォル)号沈没事件はまだ記憶に新しいだろう。
2014年に起きた転覆事故は、完全沈没までに50時間あったにもかかわらず、高校の修学旅行生を含む293名が犠牲となった。
事故後わかったのはあまりにも酷い事実だった。
積載オーバー、定員オーバー、船長はじめ船員たちの質の悪さ、救援活動の不備、船舶会社とその親会社との政治癒着・・
韓国社会の現実がそのまま浮き彫りになって起こった痛ましい事故だった。
もっともこれは日本で絶対に起きないとは限らないのだけれど。

博多にある細胞研究所は韓国の麗水に細胞治療所を設立した。
ブラジル生まれの所長の津村リカルド民男は博多と霊水を頻繁に往復し、韓国側の事務長やその家族らと親しく交流していた。
そんな折、一人の事業家からある依頼を受けた。
その事業家の孫娘は山歩きをしていて滝壺に落ち溺死したのだが、遺体は冷凍保存されている。
依頼というのは孫娘をips細胞で蘇生させてほしいというものだった。
しかし死んだ人間を生き返らせるのは不可能。ips細胞からさまざまな臓器や部位を再生させることでレプリカをつくることになった。
日本人スタッフも韓国に合流し、レプリカ作成に成功し、「はるか」という女子高校生は少しずつ記憶を取り戻しながら、祖父と田舎暮らしをすることに。
やがてはるかは世月号事件に興味を覚え、いろいろ調査し始める。
彼女自身の体には、速いスピードで老化が起きる症状が現れるようになり。。

韓国の現状、日韓の歴史、韓国や日本の風景・食べもの・・
盛りだくさんの内容がぐいぐいと読者をひきつける小説だと思う。
社会派ミステリーでもあり、医療小説でもある。
フィクションとノン・フィクション、現在と近未来がうまく混じりあっていて、韓国の政治権力と企業の癒着などとてもリアルだし、ips細胞の可能性についてもよくわかる。
謎解きの部分が多いのでストーリーを詳しくは書けないが、読み応えのある作品だった。

きっと帚木さん、何度も韓国に取材旅行に行ってこれを書いたのでしょうが、福岡と韓国って近いんですよね。
それにしても韓国料理の美味しそうなことったら!とくに事務長の奥さんの作る家庭料理がなんともなんとも。食べたいなぁ。

posted by 北杜の星 at 08:08| 山梨 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | ハ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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