2017年01月18日

堀江敏幸「雪沼とその周辺」

お正月明けのテレビで、浅井リョウ、西加奈子、綿矢りさ、村田沙耶香が対談をしていた。
それぞれにお勧めの本を紹介したのだが、綿矢は堀江作品を挙げていた。その理由説明を彼女は浅井にしてもらっていた。
浅井は「小説にはは、いろんなことが起こって、その起こったことを読ませるものと、特別なにも起こらないけれど、その文章によって読ませるものとがあって、堀江先生は後者のほうがだ」というようなことを言っていた。
浅井が堀江敏幸のことを「先生」と読んだのには少々驚いたが、堀江敏幸が若い作家からリスペクトされているのはうれしい。
(私からしたら堀江は「中堅」という感じなのだが、若い人からすると「大御所」なのかな?)
何にも起こらなくても小説は成立するし、スペクタクルのような小説がつまんないことは多い。
(伊坂幸太郎やイトヤマさんの小説は、「起こっても」起こる以上の何かがあるから、大好き)
今回、私はこれを点字で読んだ。文芸点字本は二冊目になります。

点字で読むと印字とは異なる感想が生まれるのかもしれない。 それは一つには、私の点字を読む速度がひどく遅いためもあるのだが、もう一つは、点字はいわゆるカナ表記であって漢字がないこともある。
漢字からイメージできるものがないので、「音(オン)」が表面にぐんと出てくるのだ。
カナのオンを読むことで、文章のリズムがより強く感じられ、そのリズムで小説が成立しているような気になってくる。(主人公の名前の漢字がわからないのはつまらないけけど)。

「雪沼とその周辺」には堀江敏幸のエッセンスがこんなにも詰まっていたのかと、再読して思った。
忘れられたような山あいの小さな町の住民んたちのそれぞれのささやかな日常を描く連作短編集なのだが、道具立てがいかにも堀江敏幸なのだ。
他の誰かには価値のない古いものが、その人にとっては大切なこだわり。雪沼の人たちの生き方そのものなのだ。

以前読んだときには、もっとも好きでなかった「ピラニア」という短編が、今回はとても面白かった。
「スタンス・ドット」がこの本のなかでは読者の一番人気かもしれないし、私も最初に読んだときはそうだった。古びたボーリング場の最後の営業日、若いカップルがトイレを借りにやって来て、ボーリング場のオーナーが彼らに最後のボーリングをさせてあげることになるという話だが、これがそれだけではなく、いかにオーナーがこのボーリング場の「音」にこだわりを持っていて、それがなんとも胸に響くのだ。もし私が映画監督なら、これを原作に映画を撮りたいくらいだ。

「ピラニア」は堀江さんの雰囲気とはちょっとニュアンスが違っていて、初めて読んだときにはあまりすきではなかった。
でも今回読んだら、この意外性が面白い。
堀江さんの筆は「しつこい」んですね。
点字を指でなぞっていると、それがよくわかる。主人公が中華麺や中華丼を苦手とする様子がこれでもかとしつこく描写されているのだが、まぁ、中華麺でよくこれだけ引っ張れるもんだなとその「しつこさ」にあきれてしまう。ゲップの描写も「これでもか」というくらいのしつこさ。
でもその「しつこさ」がユーモアに通じていて、そこはかとなくおかしい。
無意味でいてでもどこかひっかかる。。無意味さのなかにうっすらと人生の隙間が見えてくる。
この「ピラニア」は他の短編と違って、そうわかりやすくはないのかもしれない。
このとぼけた味が私はなんとも好きでした。

前に読んだイトヤマさんの「イッツ・オンリー・トーク」よりは、スピードが上がったかな? 
でもまだ読むのに上から下に指をすべらせないと読めない字が多い。、この本のなかで大変だったのが、「オチョボグチ」と「ウワクチビル」だった。
その一文字を読むのに3分以上かかった。ぅもぅ、堀江さん、なんとかしてよと言いたい。
そうそう、堀江敏幸の文章って、「次はこういう言葉が来るだろう」の予想をものすごく裏切られるんですよ。それが彼の文体なんでしょう。
目で字を追うより指で追うと、堀江さんの文章が「ありきたり」の使い古された言葉でないのがわかるから興味深い。
指を上下させずに、さぁーっと横だけに滑らせて読めるようになると、スピードも上がるんだけど。
でも、ずっと前に読んだ本をこうして、ゆっくり読み返すのもいいものですね。これは新しい愉しみになりそう。

「ピラニア」の次によかったのは「おくり火」。これも描写はしつこいものがあって、でもこれが「ピラニア」とは逆の効果で、「ピラニア」ではユーモアだったのが「おくり火」では。一人息子を失った悲しみを際立たせている。

中心視力がなくなって本が読めなくなることが怖かったのだけれど、どうにか大丈夫いたい。こうやって大好きな作家の大好きな本が読めるのだもの。
雪沼の人たちと同じように、人生は捨てたもんじゃないと思える。
本さえ読めていれば、私は私でいられる。。点字を教えてくださっているK先生に感謝です!
posted by 北杜の星 at 07:54| 山梨 ☀| Comment(4) | TrackBack(0) | ハ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは。
時々拝見しています。
過去のところ読んでいて(2017.1.18)気になりました。私もこの番組をみていました。
堀江さんは早稲田で教鞭をとっていて朝井リョウはゼミ生だったそうです。
はじめてコメントを書きました。
以前、須賀敦子、松家仁之をみていて訪れました。
今は点字でお読みになっているとのこと。
「眼ではなく指で字を読むと、その文章・文体がものすごく気になる。」
とのこと、ふしぎなかんじですね。
また、うかがいます。
Posted by 坂口とし子 at 2017年02月19日 17:33
こんにちは。
時々拝見しています。
過去のところ読んでいて(2017.1.18)気になりました。私もこの番組をみていました。
堀江さんは早稲田で教鞭をとっていて朝井リョウはゼミ生だったそうです。
はじめてコメントを書きました。
以前、須賀敦子、松家仁之をみていて訪れました。
今は点字でお読みになっているとのこと。
「眼ではなく指で字を読むと、その文章・文体がものすごく気になる。」
「ずっと前に読んだ本をこうして、ゆっくり読み返すのもいいものですね。」
ゆったりとした深い方なんだと思いました。
また、うかがいます。
65歳女子少し仕事しています。
Posted by 坂口とし子 at 2017年02月19日 17:45
すみません。
訂正したところも送ってしまいました。
Posted by 坂口とし子 at 2017年02月19日 17:49
坂口さん

ご指摘、ありがとうございます。

堀江敏幸の「追っかけ」をしている私の友人から、浅井リョウさんが早稲田での堀江さんの生とだと椅子得られ、「だから、先生」なんだなと、納得したのでです。

その訂正を今度、堀江さんの新刊を読んだらしようと、思っていたところでした。
でも、はやくみなさんにわかってもらってよかったです。
ありがとうございました。

須賀敦子、松家仁之・・好きな作家さんが似ていますね・・
Posted by ハッチ at 2017年02月20日 08:13
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