2017年03月29日

高峰秀子「私のごひいき」

「亀の子束子一つ、自分の気に入らない物はなに一つ、この家にはありません」と明言していた高峰秀子。
その言葉どおりの「ごひいき」の日常品がここに写真と文章とで紹介されている。
およそ20年間にわたって連載されたもので、全部で95点のアイテムがアイウエオ順に並べられている。

ノリつきメモ用紙、はさみ、ペーパーナイフ、消しゴム、修正液などの文具類がけっこう多いのは彼女が文筆家としての仕事も大切にいしていたためか。
その他に、耳かき綿棒やドア・ストッパーなどがあるが、なにより多いのが台所で使う品々だ。
彼女と夫である松山善三はずいぶんと卵好きだったようで、コレステロールもなんのその、朝食には必ず卵、すき焼きには2つすつ、卵かけご飯だって食べていた、
だから卵関係のアイテムは、茹で卵を作る時卵のお尻に穴を開けるもの、黄身と白身を分けるもの、ポーチドエッグを作るための容器・・
どれもあれば便利なものだけど、でもまぁそれがなくっても。。という感じではある。

台所用品ってむつかしい。確かにあると役立つけど、そういうものがどんどん増えるのは収納に困る。
なくていいものならなくていい・・といのが私の考えなので、天下の大女優さんには申し訳ないのだけれど、この本のなかで不用なものってわりとあった。
だけどさすがにそこは高峰秀子。どのアイテムもシンプルでいかにも使い勝手がよさそうだ。
旅行に行った折などで見つけたものもあって、そういうものに目がいくというのが、すぐれた生活人でもあった彼女らしい。

このなかにアメリカ旅行中に買った「石鹸置き」があって笑ってしまった。
というのはつい先週のこと、生活クラブの配達品のなかに「石鹸置き」があったからだ。私が注文したのではなく夫が勝手に注文していたものだった。
浴室の石鹸置きに水が溜まるのを、「これなら余分な水が落ちるよ」と容器に穴があいているから買ったらしいのだが、私は溜まった水は捨てればいいし、なによりもタイが濡れるのを防ぎたいために、「これは要らないよ」とすげなく断った。
彼はカタログを見ていろいろな注文をするのだけれど、そうした生活備品についてはちょっと私に相談してほしいと思う。
彼の思惑と私のは違うことがあるからだ。

だけど私にとっての便利であろうと思われる台所用品をあれこれ探してくれるのはありがたい。
目が悪くなってこれまで使わなかったピーラーなどの便利グッズを多用するようになったからだ。
「石鹸置き」のように「要らないよ」というこもあるが、「これ、ほしかったのよ」というのもあるからね。
そういうのを使ってみて、本当に「ごひいき」になれるものって、案外少なくて、帯に短しとか、隔靴掻痒なんてこともある。
だから高峰秀子はモノ選びの達人と言えるのだろう。

我が家のお役立ちでお気に入りって何だろう?と家の中を見回してみたのだが、うーん、ないもんですね。
強いてあげると、銅製の小さなおろし金。これは有次製のもので、ショウガやわさびを下ろすのにとてもいい。もう30年使っているので歯が摩耗してしまったのが残念で、もし京都に行くことがあったら買って来ようと考えている。
それとあと一つは、シルバーのタング・スクレーバー。
タング・スクレーバーというのは「舌こそげ」で、インドでは口腔内のお掃除として毎朝使っているらしい。
いろんな材料でできたものがあって、シルバーはそのなかでも最高級品だとか。
私の友人がアーユルヴェーダ医院で買ってプレゼントしてくれたもので、これももう30年来毎日使っている。
実用品はシンプルで作りのしっかりしたものがなによりで、買う時には値段が高いなと逡巡しても、結局は安い買い物となる場合が多いので、エイヤっと思いきることが必要だと思う。

これら台所用品のほとんどは高峰秀子が夫のために一日三回の料理を作るために揃えたモノ。
もし彼女一人ならば、料理はしなかったかもしれないと言う。
それが証拠に、ある日松山善三が留守のランチ時に、彼女はインスタントラーメンを片手鍋からそのまま食べて唇を火傷しそうになったとか。。
それを読んで、私もあり得るかも。。と思ってしまった。
料理ってつまりは自分のために作るのではないんですよね。
食べくれる人がいるから一生懸命に作るのだ。
だからせめて「美味しい」と言って食べてもらいたいものだけど、作れることが、幸せなのかもしれない。

美しい本でした。

posted by 北杜の星 at 07:35| 山梨 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | タ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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