2017年06月28日

中島たい子「万次郎茶屋」

これまでの中島たい子というと病気ものというか、体に関わる小説が多かった。
「漢方小説」を最初に読んだときのあのおかしみは今でも鮮明だ。以後「そろそろ来る」や「院内カフェ」などが続いた。
でもこれはちょっとニュアンスが違っていて、SFぽいものとかファンタジーっぽいものが並んでいる。どれも不思議な雰囲気がある。
それでも彼女特有のユーモアがそこかしこにあって、フフと笑いながらどこか胸がしんとする感じはいつもながらの中島たい子作品だ。

「親友」「初夜」「質問答症候群」「80パーマン」「万次郎茶屋」「私を変えた男」の6つの短編集。
バラエティに富むストーリーだが、ラストの印象は似通っていて、ふうわり心が軽く暖かくなる。
どれを紹介しようかと考えたが、ここはやはり表題の「万次郎茶屋」に。

動物園で飼育されているイノシシの万次郎は高齢だ。子どもの頃猟師からここに引き渡されて以来ずっと園の片隅で暮らして入りう。
動物園の花形は何と言っても象とかライオンとかキリン。
イノシシなどわざわざ見に来る客はいない。しかし飼育係の青年は万次郎の良き理解者だ。
もう一人、万次郎には大きな理解者がいた。
それは小学校の絵画コンクールで万次郎の絵を描きそれが入賞となった女の子。今は若き女性となっているのだが、小学生の時からずっと万次郎のファンとなって、ボーイフレンドを万次郎の檻に連れてくるほど。
そんな彼女はいつか万次郎を動物園から引き取りたいと思っている。
そのためのお金を得るために彼女は一計を思いつく。それは万次郎を主人公とした絵本を描くことだった。
そのお話しでは万次郎がカフェをするというもの。
じつは万次郎の長年の夢はカフェを開くことだったので、その案にびっくりしながらもうれしかった。
結局は絵本ではなく小説となったのだが(あまりにも絵が下手だったので、万次郎のアドバイスにより小説となった)、それがベストセラーに。
万次郎の檻の前は大勢の客が押し寄せ・・

というもの。
こう書くと、面白くもおかしくもないけれど、それは私のせいで、これが面白いんですよ。
悲哀も含まれていてなかなかいい。
誰かをなにかを愛すこと、愛されることの幸福感が伝わってくる。

こういうものも書けるんだ。。という中島たい子でした。
posted by 北杜の星 at 07:27| 山梨 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | ナ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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