2017年07月27日

三砂ちづる「死にゆく人のかたわらで」

著者の三砂ちづるは津田塾大学教授。母子の健康をテーマとしている疫学者である。
女性独自の身体性にもっと目を向けて、その身体性を元に保健や社会のことを考えようと提案している。
その趣旨がフェミニストたちから誤解されることも多いが、社会的なフェミニズムには賛成だが、身体性という点においては彼女の論旨は正しいと私は考えている。
これまで数冊の彼女の著作うを読み、「そう、女は太古の昔から宇宙の自然とともに生きて来たんだ」とつくづく納得させられる。
男と女の身体の性差はたしかにあるのだ。
その彼女が末期癌の夫を自宅で看取った。
これはその記録である。

この本を読むと自宅で最期」というのが、それほど大変ではないと感じられる。
もちろん、下の世話やときおり起きる昏倒発作は大変だし怖かったことだろう。
でも在宅看護のためのシステムがしっかりしていれば、例えば、在宅訪問医と看護師、ケア・スタッフがしかりしていれば、可能なんじゃないかと思えてくるのだ。
それほど三砂ちづるという人は自然体で終末介護を受け止めてる楽天さがある。
そう、必要以上に思い煩わないことの大切さを彼女は教えてくれる。

夫がある日、喉の腫れに気付き病院へ行ったところ、喉頭癌がリンパに転移したステージWの末期癌で余命6か月と告知される。
夫は団塊世代、名を金蔵という。(戦後生まれとしてはクラシカルな名前で、これは祖父による命名だったとか)。
彼はあの近藤誠医師の初めのころの本の編集者だったことで、近藤医師の信奉者。癌健診を受けたことはないし、転移した末期癌に対して過度な治療をするつもりも、ましてや延命処置も受ける気はさらさらなかった。

しかし告知を受けた直後から、発作が起きて下は垂れ流しとなることが頻繁に起きた。
これは喉にある迷走神経を癌細胞が刺激するために起きるもので、最初に受けた放射線治療で癌が小さくなってからは起きなかった。
また癌が大きくなればそれはそれで、迷走神経を壊してしまうので、発作は起きなくなったとか。

夫はやがて積極的な医療を拒否。家で高カロリー輸液900ミリリットル(これは生命維持ギリギリのカロリー)をしながら、自宅で療養することを選択。
治療はしないが症状に対しては、麻薬系の痛みどめや酸素吸入などを使った。
妻のちづるも仕事を続けた。
夫は死のその日まで、らい客と話をし、ポータブルトイレで自分で排せつできた。
175センチの身長、70キロだったが、体重は40キロを切っていたらしいが、それでも本人もちづるも、その日が最期とは思っていなかった。
安らかに穏やかに、規則的な下顎呼吸の数時間後に亡くなった。

この本には実際的な末期癌の家族を看取るための金銭的なものとか、恐怖などについても書かれている。
夫は民間の医療保険や生命保険にはいっさい加入していなくて、すべてを公的な介護保険と健康保険で賄ったそう。
その金額は合計で月に約8万円だったそうだ。
これも普通の家庭でも、それほど大変でないのではないだろうか。
おおいに役立った介護ベッドやポータブルトイレも介護保険でOKだった。
酸素吸入器も素晴らし性能のものが保健で家に運び込まれた。
日本の医療には不平不満はあるものの、著者は素直にありがたいと感謝している。

この金蔵さん、私よりちょとだけ年上だけど同世代。
彼の性格描写に笑ってしまった。「これって、ホント、団塊の世代だよな」と。
「大学では緑のヘルメットなどかぶって、その世代にふさわしい大学生活をおくり、生涯、「社会派」であることをめざし、金持ちやエライ人はすべて悪い奴だと思い、特別扱いされることを嫌い・・」とあるが、そう、そのとおり、これは私たち世代そのもの。
これだけで金蔵さんに肩入れしながら読んだ。

つくづく近藤誠医師の説が正しいと思う。
何も症状のないう癌が見つかっても、それは癌もどきで、治療の必要はない。
また症状があってしかも転移している癌は、治療しないほうがQOLが保てるし、苦しまないで死ねる。
それを実践した金象さんと、彼を看取った三砂ちづるさん。
どちらにとっても悔いのない2年2カ月だったことだろう。

これを読むと、私の夫が癌の末期になったら、家で看てあげようかなという気になります。
どうしてもできないのは、物理的なことだと思う。
体重が40キロを切ったとしても、もし倒れたら抱え起こすのは、私の体力では無理だろう。
心配なのはそういうこと。それと「死」そのものへの恐怖だが、これは別の問題として自分が克服するしかないのかもしれない。
(私之場合は、あの鎌田實先生の諏訪中央v病院のホスピスで最期を迎えたいと思っていますが。。)
posted by 北杜の星 at 07:04| 山梨 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | マ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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