2017年10月02日

平松洋子「ステーキを下町で」

これは「サンドイッチは銀座で」の続編。
相手は変わったが今回も編集者青年を同行し、北は北海道から南は沖縄まで、ガッツリと食べつくす。
懐石料理やフレンチではない。
帯広の豚丼、根室のサンマ、大震災から復興した三陸のうに弁当、京都のうどん、鹿児島の黒豚豚カツ、沖縄の沖縄そば、タイトルにある東京下町のステーキや大将の餃子などなど。
平松さんは食そのものへの情熱もさることながら、それを作り供する人たちへの敬意を忘れない。
彼らから聞くさまざまな話しの中から珠玉のひと言をすくい取り、胸の底にそっと収める。
私はその彼女の食に対する優しさが大好きだ。
その優しさがあるからこそ、潔くガッツリと食べられるのだろう。

食べものが誕生するには、その土地の歴史や事情が陰にある。
平松さんのエッセイが興味深いのは、彼女が店主から丹念に話しを聞いて書くからだ。
食べたものをただ評価するのではない。
きちんと同行の編集者青年にも気を使っている。
そのことは京都のうどんの章に表れている。
車谷長吉ファンの彼が失恋して赤目四十八滝に行き、再び今度は平松さんと極寒の滝巡りをするのだが、寒さがこちらまで伝わってきそうな滝の様子が描かれている。
そして京都に戻って食べる熱々のあんかけうどん。

そう、京都では冬はあんかけうどん、なんですね。
京都の人は少々の風邪はあんかけじゅどんで治すらしい。
葛でとじるあんかけは、最後まで冷めない。
今は讃岐うどんが日本中を席巻しているが、出汁のきいた汁にはあの硬さではダメ。
柔らかでしんなりしたうどんでなくては、だし汁がからまないのだ。
むくつけき男があんかけうどんを舌を焦がしながらするのはちょっと似合わない気がするが、かわいくもある。
(どういうわけか、あんかけうどんは女性の食べものという印象が私にはあるんです)。

タイトルのステーキにはただただ感嘆するばかり。
だって平松さん、ナント520gのステーキを注文。(店でもjっとも大きなもの)。
まるで煉瓦の塊のようなそのステーキをぜーんぶ、食べちゃったのだ。
さすがの編集者青年もタジタジだったというのに。
すごいなぁ。

この本で知ったのだが、彼女は約束の時間や列車の時間にいつもギリギリで家を出る悪癖があるそうで、東京駅の新幹線ホームの眼の前で、列車のドアが閉まったことが一度や二度ではないという。
同行する人は気が気じゃなかったでしょうね。
これまで彼女のエッセイを読むと、どうやら西荻周辺にお住まいみたいなのだが、西荻から東京駅までは乗り換えないしの中央線一本、30分で着けるはず。
もう少し早く家を出て下さいね。

この本には谷口ジロー氏の絵があるのだが、私が読んだのは印字本ではなくて点字本。
点字本には残念ながら絵がないのです。平松さんの書く文章にどんな絵が添えられていたか。。こういう時に点字はつまんない。

何が食べたい?と聞くときまって「ステーキ」と即答する我が夫。
平松さんの520gはさぞ羨ましいことでしょう。
posted by 北杜の星 at 07:47| 山梨 | Comment(0) | ハ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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