2017年10月09日

桐野夏生「デンジャラス」とお知らせ

seesaaブログのシステム障害で記事のアップができませんでしたが、やとと解決。

まずお知らせから。
明日から台湾旅行のため、1週間ブログをお休みします。
若い友人夫婦が誘ってくれて、思いがけず夫も参加。彼にとっては初めてのアジア旅行です。
イタリア以外に渡航することはないと思われた彼ですが、楽しんでもらいたいです。
とくに予定を決めず、足と舌に任せて、ぶらぶら街歩きをしながら、美味しいものを食べてくるつもりです。
今日のブログは食べることがなによりも好きだった谷崎潤一郎と周辺の女性たちを描いた、桐野夏生作品です。


これ、面白かった。
桐野夏生のミステリーを読むと、いつまでも黒い淀んだ悪意の空気に包まれて、読後感が良くないため好きではないのだが、この谷崎潤一郎の晩年の生活を、松子夫人の妹重子を軸に描く「デンジャラス」は、とても読み応えがあった。
もともと私は谷崎ファンで、彼の小説世界は志賀直哉や川端のよな文芸作品にくらげると俗っぽいのだけど、小説らしい小説として独特のものがあり、「読物」として読者を飽きさせない。
そのエロティシズムもいい。(川端にもすごいエロティシズムはあるんですけど)。
ここには谷崎が松子夫人、重子、重子の嫁の千萬子という三人のミューズたちと、いかに「家庭王国」を築き、そのなかに君臨したかが描かれれている。

「君臨」と言っても、当時の男性とは、女性のシュミが谷崎は違っていた。
それは「痴人の愛」や「春琴抄」などでわかるように、いかにも良妻賢母的女性は好みではなく、どちらかと言えばマゾヒステックで女性に振り回され尽くすことで性的充足を覚えるというタイプ。
だから三番目の妻の松子は彼にとって理想の女性であった。
大阪船場の大金持ちの次女として生まれ、これまた大金持ちの息子と結婚したものの、夫の放蕩で全財産を失うと離婚、谷崎と二人の子連れで再婚した。
春は花見、秋は紅葉狩り、歌舞伎見物など遊興三昧、衣食住はもちろん豪華絢爛。
谷崎はそんな育ちの松子から関西の文化的な吸収を大いにすることができた。
彼の家庭王国には彼以外の男は不要だった。
松子の息子は体よく追放され、娘だけを養女としたし、常時数名の女中を置いて、彼女たちを観察していて。その様子は「台所太平記」に結実している。

谷崎の代表作の「細雪」の主人公は「雪子」。
そして雪子のモデルとなったのが松子の妹の重子である。
重子は実生活ではいつも松子が太陽なら月となって、谷崎家の家政を支えた。
遅い結婚までは谷崎家で暮らしたし、寡婦となってからはずっと谷崎と松子のそばにいた。
自己主張をしない性格の重子を「デンジャラス」の主人公に桐野がしたのはなぜなのか?
そこらあたりが、この本のもっとも興味深い点だと私は考える。
谷崎をして「あなたは怖いひとだ」と言わしめる重子。重子を見ていると「役割を知る人間の強さ」を感じてしまう。それは松子とはまた違う役割だ。

それにしても重子の養子(松子の息子)の嫁の千萬子は、ちょっと気の毒なくらいの扱いをここでは受けている。
文豪と呼ばれる身となってはいても、だんだん老いの迫りくる谷崎の新しいミューズとして愛されるのをいいことに、金銭的な無心をしたり、松子や重子にとって
けっこうな悪者となっているのだ。
けれど作家の眼には、松子、重子、千萬子の3人の女性の心理などすっかりお見通しで、それさえも楽しみ、小説のネタにしていたのではないかと思われるのだが、そんな谷崎でも本当の女の怖さには敵わなかったのか。。

もっとも、こfれはノンフィクションではない。
あくまでも桐野夏生が書く小説だ。
自ら書くこともせず、書かれることもあまりなかった重子の立ち場からのフィクションである。
谷崎を知るにはやはり、谷崎作品を読むのが一番。
posted by 北杜の星 at 16:36| 山梨 ☀| Comment(0) | カ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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