2017年11月06日

乙川優三郎「生きる」

点字でいろんなジャンルの本を読んでみようと、今回は初めて時代小説を試みてみた。点字本というのは言うならばカタカナ表記のようなものだから、時代小説の情緒がどこまで伝わってくるかが問題だった。
例えばこの主人公の「又右衛門」という名が「マタエモン」ではなんか調子がでないので、それがどうなのかを体験してみたかったのだ。

でも読み始めて高熱が出た。
39度5分を超えたら、目すら開けていられなくなった。とても本を読むどころではない。
次の日、1度下がったが、印字はまだまだ読む気にもなれない。でもこの点字の本、指でそろそろ触ってみると、読めるではないか!
2ページほど読んで止めたのだけど、そうか、目より疲れないんだとうれしくなった。
このところ点字を読むスピードが速くなって、一冊3巻のこれが10日ちょっとで完読できた。この速さならたいていの長編は貸し出し期限の20日以内に読める。ということは日本どこの点字図書館からでも借り受けられることになるので、新刊本だってるから、とってもうれしい。

熱があってもこれが読めたのは、でも乙川優三郎の流れるような文章のおかげだと思う。
ひっかかりがどこにもなくて簡潔な文章。それでいて雰囲気に満ちている、
じつは乙川作品はこれが初読みだった。選んだのは直木賞受賞の時代小説という条件だけだった。
大正解。すっかりファンになりました。

江戸の時代、「追腹を切る」行為は亡き藩主への忠誠を示すもので、藩主に恩義があればあるほど求められるものだった。
又右衛門の父は浪人の身から藩主に引き立てられ禄を得るようになったため、彼自身も周囲も殉死するものと見られていた。
しかし家老から殉死を禁じられ、念書を書かされたため、追腹が切れなくなった。
周りからは臆病者と冷たい目で見られ四面楚歌、嫁に行った娘からは義絶され、一人息子は自死してしまう。
ただ一人、彼を理解する妻は病弱で山深い湯の里で療養に行っているが、そこを訪れた又右衛門はそのときだけ、ほのぼのとした時間を妻と過ごすのだが。。

書くと、ストーリーはこれだけなのだが、とってもいいんです。
さまざまなしがらみや括りの時代だからこそある人間のあれこれが、とても切なくて、これぞ時代小説という感じ。
しかも「あざとい」ところがないし、時代小説の臭さも感じれr内。
他に2編の中編が収録されているが、どれも同じような印象でもの悲しい。
身分違いの女中を出世のために捨てた男の悲哀と追想など、思わずジーンとくる。
時代小説って主人公の男性よりも、脇の凛とした女性の強さがなんとも言えないんですね。
時代小説をあまり読まない私だけど、つい、はまりそうな乙川優三郎でした。
posted by 北杜の星 at 08:03| 山梨 ☀| Comment(0) | ア行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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